【天国と地獄】犯人は東朔也で完結!テーマは<愛と正義のカタチ>?
【天国と地獄】犯人は東朔也で完結!テーマは<愛と正義のカタチ>?
【天国と地獄】(TBS)最終回後の考察コラムです。犯人とテーマ〈愛と正義のカタチ〉についてです。
連続殺人の犯人は東朔也(迫田孝也)で完結しました。ひねりがあるのではないか…と思われたものの、十和田元の生存説もハズレ。日高が女性説も回収なし!犯人の<どんでん返し>はなくストレートに彩子・日高の心理戦を描き、考察の裏をかいた最終回の脚本でした。そんな最終回にしたのは本作のテーマ<愛と正義のカタチ>を描くためだったと思います。
※当記事は一部ネタバレありです。
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【天国と地獄】犯人は東朔也で完結!
9話で連続殺人の犯人は東朔也(迫田孝也)と明かされました。
最終回でも犯人は東朔也のままで完結。
物語の焦点は、日高(高橋一生)が単独の殺人犯と自供したことで、彩子(綾瀬はるか)がどう日高の供述を覆せるのかに!
9話までの考察では、真犯人は八巻(溝端淳平)・陸(柄本佑)・女性キャスト・有名ゲスト(とくに田口浩正さん)の誰かが、どんでん返しで明かされる…と思っていました。↓
すべて大ハズレです。恥ずかしい。
【天国と地獄】テーマは<愛と正義のカタチ>
【天国と地獄】はSNSで考察が盛り上がっていました。ドラマ「あなたの番です」「テセウスの船」のように…。
しかし最終回ひとつ前となった第9話で犯人が明かされてしまったなんて!
もうひと「ひねり」あるはず!翻弄してほしい!
という願望が考察を後押ししてしまったようです。
誰が犯人か…だけでは、心を震わすドラマにはなりにくい。
だから最終回は、彩子(綾瀬はるか)と日高(高橋一生)の心理戦にしたのだと思います。
この心理戦で描かれたのは<愛と正義のカタチ>!
【天国と地獄】彩子(綾瀬はるか)の愛と正義
望月彩子(綾瀬はるか)の愛と正義とは?
あるべき世の姿=正義
第4話で、日高(高橋一生)が「だからあなただったんですか!だから私は あなたと入れ替わったんですよ」と彩子に語りました。
この「だから」とは彩子の正義を感じたからだと思います。
この直前の会話で、彩子は日高と取り引きを持ち掛けます。「もう誰も殺さないって誓って」と。
誓わないならば、証拠の手袋は渡さない、今すぐ(彩子の姿の)四方(よも)殺人動画を捜査一課へ送る…と強気な彩子。
望月彩子の身体が殺人犯になってもかまわない…と、本気な彩子。
「私だって警官の端くれだからね。あんたを野放しにして、これ以上、死体が増えるくらいなら、このままあんたを突き出す!」と彩子。
そんなことしたら破滅する、と日高に言われても信念が揺るがない彩子は…
「上等だよ! この際 2人 仲良く 地獄行きといきましょうよ それがあるべき世の姿なんだから」
と言い放ちました。
「あるべき世の姿」を外れないことが彩子の正義といえるシーンでしょう。
正義の味方
第5話で、彩子が警察官になった理由を語りました。
理由は、小学4年生のときの悔しい出来事です。
クラスメイトの上履きを隠そうとしてた子を注意した彩子。
しかしその子が人気者だったから、逆に彩子が悪者になってしまった。
彩子は「もう一人で泣いた泣いた。こんなの絶対おかしい。間違ってるって。で、私が正しい世の中にするって小学4年生の彩子ちゃんは正義の味方になる決心をしたの」と日高に語りました。
死守すべきルール=正義
また第8話では、ルールについて彩子が語っています。
「あなたのお兄ちゃんにとってはぶっ殺したくなるような相手でも、その死を悲しんでる人達はいっぱいいると思わない?」と彩子。
日高は悲しむ人がいない人間は殺されてもいいって聞こえる、と疑問を投げかけます。
彩子は反論。「フォロワー100万人の人気者だろうが、死んでも誰一人気づかないオッサンだろうが、 善人だろうが悪人だろうが、どんな人でも殺されていいわけないし、同時に誰かを殺すことも許されない。私はそういう当たり前のこと言ってるだけだけど…」
日高は「その当たり前がここのところ成り立っていない世の中だと感じてる」と言います。
たしかに日高の言うとおり、(凶悪犯罪は昔よりは減少しているとは言いますが)アニメ制作会社に火をつけた無差別殺人、乳児・幼児虐待死、自殺…当たり前が成り立ってはいませんよね。
彩子は「でもどんな事情があれ、ここを譲ったらいずれ全てがなし崩しになる<死守すべきルール>ってもんが人間にはあると思わない?」と反論。
濡れ衣を見逃せない愛と正義
「正義の味方」になりたくて警察官になった彩子は、すべき論者でベッキーと呼ばれるタイプ。しかし信念を曲げません。たとえ自分の身体が犯罪者になったとしても…。
そんな彩子が、最終回で日高(高橋一生)を無実の罪で死刑になるのを見逃す、なんて出来ません。
小学生時代、濡れ衣を着せられて泣いた彩子は、濡れ衣で死刑になる日高を見逃したら…「その瞬間、正義をなくす」と語ります。
「私に、私の正義を守らせて」と日高に訴える彩子。
この懇願に、ついに日高は、殺人していないと認めました。
(注:日高は彩子を守るために罪を認めていました)
彩子にとっての正義が描かれた最終回。
ドラマ「相棒」の杉下右京も、犯人にどんな事情があれど、正義・ルールで断罪するのですが…望月亜綾も同じ。
空集合を否定した愛
思えば9話で、彩子が東朔也を殴った時、「同情なんてしない!」と語っていましたよね。
「あんたはクウシュウゴウなんかじゃない。あんたのために共犯になった者がいるんだからね!」とも訴えていました。
これは筆者の感じたことですが…人は、世界でたった一人に感じられる孤独なときがあります。東朔也のように。それでも、悲しむ人がいる。そう思ったら、犯罪なんてできません。そう信じたいものです。
彩子は、そういう大切なものに気づくことができます。愛情が深いのだと感じざるを得ません。
【天国と地獄】日高(高橋一生)の愛と正義
日高(高橋一生)の愛と正義とは?
兄を守るための愛と正義
日高(高橋一生)は当初、サイコパスの殺人鬼とみられていました。
しかし生き別れの双子の兄・東朔也(迫田孝也)の殺人の証拠隠滅をしていた、とのちに分かります。
第8話で彩子に死守すべきこの世のルールについて聞かされても「そんなこと何百回も考えた!」と言っていた日高。
何度も何度も考えた上で、東朔也の共犯者になると決断した日高。
「お前が15分先に生まれてくれば!」と東朔也に叫ばれたとき以来…日高は自分が兄の立場になってもおかしくなかった、と思うようになりました。
田所さん殺害事件の現場に半信半疑で行ったとき、特殊洗剤の「サンプルQ」や凶器が置いてありました。通報するか、共犯になるか問われていると思った日高は、共犯に!
兄=相手の立場を考えてしまう愛です。歪(ゆが)んだ愛ではありますが…
日高にとっては、兄を守ることが正しいことでした。正義でした…。
彩子を守るための愛と正義
最終回では、日高が彩子を守るために3件とも単独犯として自供=愛。
彩子の姿で殺人している動画が出てこないように…という配慮・愛です。
そんなことするのか?と陸は驚きますが、「そういうやつなのよ」って彩子。
しかし、彩子にとっては、愛でも正義でもありませんでした。それは前述のとおりですね。
【天国と地獄】東朔也(迫田孝也)の愛と正義
東朔也(迫田孝也)の愛と正義とは?
世直し・復讐という正義
東朔也(迫田孝也)は殺人犯です。しかし彼にも彼なりの正義がありました。
父に借金を負わせた男=四方忠良(被害者)、強烈なパワハラ上司・田所仁志(被害者)、濡れ衣で解雇されたときの会社社長の息子=久米幸彦※(被害者)。
※久米の息子は喫煙室のロックを解除して泥棒に入られて張本人です。それを警備会社社長が東朔也に罪をなすりつけてクビにしました。ちなみにリストには親の方が掲載されていました。
3つの殺人事件には、東朔也の復讐、世直し的意味もありました。
最終回の映像データで、東朔也は自白します。
東朔也:「俺は掃除屋なもんで、最後にこの世の掃除をしていきたいと思ったんですよ この3人は俺が知る最悪のゴミで、きれいにしたほうが世の中のためですから、だから俺が殺した」
殺人はいけないことです。警察の河原(北村一輝)は「汚え、しゃがれた、聞くに堪えない声だ」とも言いました。それでも「声は声だ。お前にその声を奪う正義はあるのか? たかが女一人のために」と語っていた河原。
つまり殺人は、東朔也の声=メッセージ=彼なりの正義でした。
思えば、河原のセリフのあと、日高は「はい」と言ってました。女ひとりのために奪う正義がある、ってこと。彩子は自分だから。自分を守るのは当然。これ、日高の告白じゃないですか?愛ですよね!
【天国と地獄】陸(柄本佑)の愛と正義
陸(柄本佑)の愛と正義も最終回で描かれていて、展開のキーを握っていましたね。
師匠=東朔也の遺体のそばに落ちていたSDカードを偶然にも拾った陸。
のちにそのSDカードが切り札になるとわかるんです。
そのSDカードが日高を救うことになる。しかしそれだと、彩子がピンチに!?
<彩子を守りたい>のが陸。しかし、それだと、彩子のしたいこと=日高を助けたい、ができない。
彩子のためにどっちがいいのか?
この彩子への愛と、正しいことの葛藤に悩む陸。
陸は、最後は、師匠の言葉を思い出して決断。陸は陸なりの正義で決心しました。
陸の葛藤は下記記事でも紹介しましたので、参照してみてください↓
【天国と地獄】はテーマ<愛と正義のカタチ>を多面的に描いて濃いドラマに!
立場が違うと<愛と正義>が変わる!
ということが、彩子、日高、東朔也のそれぞれの愛と正義を見てきて、感じます。
多面的に描いた森下脚本
脚本の森下佳子さんは東京大学文学部の宗教学科卒、東京大学大学院社会家系研究科・文学部の卒業生インタビューの中で、心がけていることをこう語っていました↓
シナリオを書くときに心がけていることとして、シナリオの単純な図式としては、主人公がいて、敵対する悪人がいる、というふうな物語上の見え方がありますが、敵対する悪人にもこの人の信じるもの、理由なり、理屈なりが必ずあるんです。それをできるだけ多面的に表す、そのほうがドラマって絶対に濃くなります。
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/interview/graduates/vol_01/
警察の彩子の愛と正義、悪人にみえた日高・東朔也の愛と正義。
<警察と犯人>、<善と悪>という単純な図式にならず、日高の理由、東朔也の理由が描かれていたことで、単純な考察ドラマに終わらず、濃い人間ドラマになっていたと思います。
つづけて森下さんは…
現実社会の利害の対立においても、AさんとBさんが実はまったく同じ人間であったとしても、育ったところや、立っている位置が違えば、やはり敵・味方になるでしょう。同じようなことをシナリオライターの岡田恵和さんがおっしゃっているんですが、「ドラマとか物語は悪人と善人が戦うからおもしろいんじゃない。正論と正論が戦うからおもしろいんだ」。そういう見方って実は宗教学科で習ったことでもあるんです。普遍的なものの見方というか、考え方というのは、まさに「知」ということなんだなと思います。
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/interview/graduates/vol_01/
正論と正論がぶつかっていたのか…は視聴者それぞれの感じ方だと思うのですが、
借金を他の人に騙される形で負わされ、強烈なパワハラ、濡れ衣でクビ、あげくガンになるなんて・・・など同情すべき立場だったなあと筆者は感じて仕方なかったです。
東朔也の背景の想像が必要?
まあミステリー形式的に仕方ないのですが、回想シーンでちゃんと描かれていたのって、濡れ衣でクビのところだけでした。
東朔也が認知症の父の介護に苦労したこと、パワハラ上司がどんなヒドイ男だったのか、夜逃げ同然なときの悔しい様子なども描かれても良かったかな、と思います。ながら見ではあまり感動できない、想像力を働かせる必要のあるドラマでした。
(個人的意見ですが)回想シーン少な目でも、それでも迫田孝也さんの演技で充分に痛いほどに伝わりました。
立場逆転と想像
価値観が多様化して、SNSもすぐ炎上して、不用意な発言で会長辞任、不倫で叩かれるなど、ちょっと息苦しい世の中。
それでも正しいことを正しいって言いたいですよね。そんな彩子の正義に感動するドラマでもあったなと思います。
けれど感動作と簡単にいえないドラマでもありました。<入れ替わりの逆転>のエンタメだったのですが、相手の立場に立ってみるという人間関係で大事なことが<実際の逆転>や<想像すること>を通して描かれていた作品でした。
立場が逆転すれば変わる、登場人物それぞれの<愛と正義>。その揺れが描かれた深いドラマだったと思います。
当記事画像出典:https://www.tbs.co.jp/tengokutojigoku_tbs/
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