映画【怪物の木こり】ネタバレ・感想|荘厳で美しいラストシーンに胸揺さぶられる!

映画【怪物の木こり】ネタバレ・感想|荘厳で美しいラストシーンに胸揺さぶられる!

2023年12月1日、映画【怪物の木こり】が公開されました。
世界中に熱狂的ファンを持つ三池崇史監督が送る超刺激サスペンス。
主演・亀梨和也。共演に、菜々緒、吉岡里帆、染谷将太、中村獅童、渋川清彦。
怪物の仮面を被り、斧で頭を割って脳を奪い去る連続猟奇殺人事件の犯人に次のターゲットとして狙われたのは、弁護士・二宮彰(亀梨和也)。
しかし二宮は殺人鬼をも凌駕する狂気のサイコパスでした。

三池監督の超過激サスペンスというとやっぱり怖いシーンが多いのかな。

怖いのが苦手という人も大丈夫!血が出るシーンもあるけれどグロくなくて芸術性を感じたよ。

「連続殺人鬼対サイコパス」を謳ったサスペンスですが、観終わった後は深い感動と切ない余韻で胸がいっぱいになりました。
それでは、映画【怪物の木こり】のネタバレ・感想をお届けしていきます。

以下ネタバレを含みますのでご注意ください。

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目次

映画【怪物の木こり】のネタバレ

31年前の東間事件

森の中にある東間翠(柚希礼音)の屋敷に、北島信三(出合正幸)をはじめとする静岡県警の捜査員たちが訪れた。
重い扉を開けた北島がそこで見たのは、頭に手術を施された少年が絵本を読む姿。
その向かいに東間が座っている。
刑事たちに気づくと立ち上がり、少年に刃物を向けた。
「貴様その子に何をした!」
「あら心配なのはこの子だけ?」
その時、部下から隣の部屋で15体の子どもの遺体を発見したと報告があった。
東間は不敵に微笑み北島たちが止める間もなく自らの首を切る。

手慣れた殺人

怪物の木こり二宮

二宮彰(亀梨和也)が運転するBMWを追ってくる車があった。
二宮は見通しの悪いカーブの先で車を停めると、猛スピードで走って来た車の前に仁王立ちになる。
突然目の前に人が現れ、運転していた男は慌ててハンドルを切るが車は横転。
そこへ眉一つ動かさないまま歩いてくる二宮。
運転席で逆さまになった状態の男は矢部正嗣(今井朋彦)。
勤めている杉谷総合病院で使い込みをしたことが発覚した矢部は、病院の弱みを探るうちに不自然な死亡診断書を何通か見つける。
偽造の死亡診断書が出た日、防犯カメラに二宮が映っていたため、怪しいと思って後を追っていたのだった。
助けて欲しいと懇願する矢部の頸動脈を、二宮はミラーの破片で切り裂く。

二宮と戸城が出会う

矢部が疑念を抱いた死亡診断書を書いていたのは、杉谷総合病院院長の息子であり脳神経外科医の杉谷九朗(染谷将太)だった。
杉谷は、優秀な弁護士である二宮が実は目的の為なら殺人もいとわないサイコパスだということを知る唯一の人物。
杉谷もまたサイコパスであり、友人の二宮の殺人の後始末をしていたのだった。
防犯カメラに自分が映っていたことを知った二宮は杉谷総合病院に来るが、そこで警視庁のプロファイラー・戸城嵐子(菜々緒)と偶然出会う。
戸城は、担当している連続猟奇殺人事件の犯人が精神病疾患者の可能性はないかと杉谷に話を聞きに来ていた。

「防犯カメラのデータは消しておくから大丈夫」と杉谷は言ったが、「大丈夫じゃないから来たんだろ」と二宮はボールを投げてカメラを壊す。

怪物の木こり登場

怪物の木こり怪物

二宮は自宅の高級マンションの地下駐車場で、突然怪物のマスクをかぶった人物に斧で襲われる。
「お前ら怪物は死ぬべきだ」
謎の人物はそう告げる。
激しく争った末に九死に一生を得た二宮だったが、頭がい骨骨折の重傷を負ってしまった。
「絶対に殺してやる」
復讐を誓う二宮。

脳泥棒

戸城が担当する連続猟奇殺人事件は、斧で頭を割られ脳を全て持ち去られるという残忍な事件で犯人は通称「脳泥棒」と呼ばれていた。
手口から同一犯の可能性が高いと思われるが、被害者に共通点が見つからなかった。
戸城のプロファイルによると、犯人はサイコパス傾向にあり、秩序的な犯行で明確な動機がある。
戸城は、被害者には何らかの共通点があるはずで見落としているだけだと考えていた。
捜査一課の係長・広瀬秀介(堀部圭亮)は、所轄の刑事・乾登人(渋川清彦)に、戸城が言う共通点を探るように命じる。

父を亡くした婚約者

二宮は担当医師の益子(みのすけ)から、検査の結果大きな心配はいらないが、脳チップへの影響が気になるので退院後かかりつけの病院で診てもらったほうが良いと言われる。
自分の頭に脳チップが埋められていることをその時初めて知った二宮だったが、動揺を悟られないようにうまくごまかした。

サイコパスについて検索していると、婚約者の荷見映美(吉岡里帆)が見舞いに来た。
映美は、二宮と自分を一緒にさせたがっていた父親も亡くなったことだし、無理して交際を続けなくても良いと言うが、二宮は「僕の気持ちは変わりませんよ」と告げる。
しかし実は、映美の父親を自殺に見せかけて殺害したのは二宮だった。
映美の父親の荷見法律事務所のシニアパートナーになるのが、二宮の目的だったのだ。

被害者たちの共通点

乾は、被害者たちが皆、児童養護施設に捨てられていたことを調べ上げる。
ただし、それぞれ別の施設だったため、そこで捜査は行き詰まってしまった。

広瀬は戸城に、乾がかつて捜査一課にいた時にトラブルを起こしたことを話す。
過去に乾は、夫が保険金目当てで妻を殺害した疑惑の事件を担当していた。
容疑者の剣持武士(中村獅童)は結局不起訴になったのだが、妻の父親に暴言を浴びせている剣持を殴ってしまった乾は更迭されてしまう。
「剣持は典型的なサイコパスですね」話を聞いた戸城は言う。

児童養護施設に捨てられていた子

二宮もまた児童養護施設の前に捨てられていた子だった。
脳チップを埋められたのはそれ以前のこと。
二宮が杉谷に脳チップの話をすると、それは違法手術であることを教えてくれた。
「彰くんが脳チップを埋められている場所は倫理や共感に関わる部分」と嬉しそうに言う杉谷。

二宮は、杉谷のPCにたまたま表示された映画のBlu-rayの広告に気づく。
ティルム・バートン監督「怪物の木こり」。
そこに映っていたのは二宮を襲った人物がかぶっていた怪物マスクだった。
杉谷に、これをかぶった男に「お前ら怪物は死ぬべきだ」と襲われた話をすると、「お前らって俺のこと?」と杉谷は言う。
「かもな。あんまり怪物っぽくないけど」
二宮は警察よりも先に怪物を見つけることを決意する。

映画「怪物の木こり」の原作の絵本を買ってきて読む二宮。
それは、木こりに化けた怪物が村の人たちを次々に食べていく話だった。

遠い記憶

怪物の木こり二宮

退院後、ジョギングをしていた二宮は見知らぬ親子連れとすれ違う。
父親が幼い娘を虐待して泣かせていたが関わらずにそのまま行き過ぎようとした時、不意に頭の中に養護施設時代の映像が蘇り、二宮は立ち止まる。
気が付くと戻って父親を殴り倒していた。
泣いていた女の子が急に後ろを指さす。
振りかえると、怪物マスクの男が。
攻撃をかわした二宮は歩道橋の上から飛び降りる。

映美と戸城が来訪

退院したばかりで不便だろうと、映美が差し入れをマンションに持ってきてくれた。
そのまま帰ろうとする映美を、二宮は「良かったら寄っていきませんか」と招き入れる。
怪我をした手に気づかれて「映美さんにはカッコ悪いところ見せたくなかったな」と言う二宮。
「少しは私に弱いところを見せてもいいんじゃない」とほどけた包帯を巻き直す彼女を見つめ、ぎこちなく肩に手を置いて、二人ともなんとなく違和感を覚えたところでインターフォンが鳴った。

訪れたのは戸城と乾だった。
「奥様でないのなら席を外してください」と言われて映美は帰る。
戸城は、二宮が襲われた事件について質問を始めた。
恨みをもらう覚えはあるか。凶器は斧ではなかったか。
そして写真を何枚も並べて、「この中に知り合いはいますか」と聞く。
それは脳泥棒の事件の被害者たちの写真だった。
更に、養護施設の出身であることを確認する戸城に、二宮は「それはどういう趣旨の質問ですか」と聞く。

これまで室内で犯行を重ねていた連続殺人犯が屋外で殺人を犯したことで、戸城は犯人がターゲットを一人も残したくないと焦っているのではと分析していた。
そしてどこかで失敗した事件があったのではと思い、大怪我をしたが死亡にまでは至らなかった二宮の事件に着目したのだった。
戸城と乾は、明らかに何かを隠している二宮に疑いを持つ。

担当医を殺害

戸城の訪問を受け、二宮は自分を襲った怪物マスクの男が連続猟奇殺人事件の犯人であることを確信した。
「おそらく狙いは脳チップだ」
二宮に脳チップが埋められていることを知っているのは、入院した病院の担当医・益子。
益子は二宮の別荘に連れて来られる。
防水シートの上の椅子に縛り上げ、その前に立つ二宮と杉谷。
まずスマホで一撃した二宮だったが、とどめを刺そうとするとなぜか気分が悪くなってしまう。
代わりに杉谷が軽々と命を奪った。

サイコパスにされた子どもたち

杉谷は、31年前に静岡県で起こった東間事件のことを調べていた。
脳神経外科医の東間翠は、サイコパスの息子の治療のために、沢山の子どもたちを誘拐してサイコパスにするため脳チップを埋める手術をした。
壊し方がわかれば修理もわかるはずと思っての人体実験だったが、結局ほとんどの子が亡くなり、息子も10歳で死亡している。
「彰くんはきっと東間事件の生き残りだね」
杉谷は、二宮が益子を殺すことにためらいがあったのは怪物マスクの男にやられた衝撃で脳チップが壊れたためではないかと言う。
脳チップの手術をするためには最初の手術のデータが必要。なにもしないままだと普通の人格になっていくと言う。
杉谷はこのまま普通に戻るつもりかと二宮に聞いた。
「戻ったら何か良いことがあるのか」
「俺にわかるわけない」
「俺と彰くんは一蓮托生。もし普通に戻ったとしてもやったことの罪は消えないよ」と言うと、
「何をびびってるんだ、杉谷」と冷たく二宮が言う。
「そういうんではないよ」少しむっとした表情。
杉谷は二宮に東間事件のデータを送ると約束した。

一方、捜査本部でも連続猟奇殺人事件と東間事件が関連していることを突き止めていた。
脳泥棒の被害者の一人に脳チップが埋められていることがわかったのだ。
違法捜査で二宮の頭にも脳チップがあることを知っていた戸城は、被害者全員に脳チップが埋められているのではと分析する。
当時東間事件を担当した刑事、現在は引退して浜松の交通センターにいる北島が、招聘されて捜査に協力することになった。
北島はなぜか乾と面識があるようで戸城は不思議に思うが、その理由はすぐにわかった。
乾が更迭された原因になった剣持武士は、東間事件で最初に脳チップの手術をされた子ども「たけしくん」の成長した姿だったのだ。
剣持が犯人のターゲットになる可能性を考え、保護することになった。

剣持を保護する

怪物の木こり剣持

乾は、剣持のことを一番知っているのは自分だと主張するが担当から外される。
一人大衆食堂で飲んでいる乾のところへ戸城がやってきた。
乾は、サイコパス狩りをしている奴を止める必要があるのかと言う。
剣持のような人間は死ぬまで変わらないと。

戸城は他の刑事たちとともに、剣持のアパートへ行く。
剣持は自分が脳チップを埋められていることは知っていたが、警察が保護するという話は拒否する。
まだ妻を殺した疑いを持っているから自分の周りをうろつくつもりなのだろうと。
そして殺人犯が来たら自分がぶっ殺してやると豪語した。

花束二つ

二宮は、映美の父が落下して亡くなったビルに来ていた。
自分が突き落とした時の様子が蘇る。
そこへ映美がやって来た。
自分が持ってきた花束を、二宮が置いた花束の隣にそっと置く。
映美は、二宮のことを誤解していたと言う。
父に紹介されたけれど苦手だった、いつもお芝居しているようにしか見えなかった。
父が亡くなってからは事務所を継ぐことに夢中だと思っていた。
「でも父のことをちゃんと悼んでくれたのね、ありがとう」

そっと身体を寄せる映美を戸惑いながら抱きしめる二宮。

のぞみ園へ

東間の協力者・金木が殺されたことがわかった。死後3カ月経っている。
金木の家から被害者リストが盗まれていた。脳泥棒の仕業だ。

戸城は、二宮の担当医が行方不明になっていることから、二宮の頭にも脳チップがあることを上司に伝え、事件に関わっているに違いないと訴える。
しかし令状なしにカルテを盗み見たことを問題視され、戸城は捜査から外されてしまった。

二宮は、映美と一緒に出身の児童養護施設「のぞみ園」を訪れる。
良子先生(安澤千草)は立派になった二宮との再会を喜んでくれた。
ここにいた時はジャイアンみたいで同じ歌ばかり歌っていたと言って、「おひさまあたれ」の歌をハミングしてくれた。
映美が席を外した後、二宮は良子先生に自分が捨てられた時のことを聞く。
4歳の時に園の前に置かれていたこと、名前を言わない人から二宮の様子や性格を聞く電話が何回かあったことを教えてくれた。
「あきらくんは角が取れて凄く優しくなった、きっとあのこのおかげね」と良子先生は言う。
映美は外で園の子どもたちと「おひさまあたれ」の歌を歌っていた。
歌を聞いているうちに、二宮の目に涙があふれる。
どうして泣いているのか自分でもわからないまま涙が流れ続ける。
二宮の肩を映美は優しく抱いた。

正体がわかった!

二宮は「怪物の木こり」の絵本を読み直してみて、自分を襲った犯人が誰なのかわかった。

突然窓から怪物マスクの男が入って来る。
組み敷いてマスクを取ると、それは杉谷だった。
杉谷は「やっぱり殺せないんだね。がっかりだよ」と言う。二宮を試したのだった。
二宮は「奴の正体がわかった」と言い、手術の準備をしておくように頼んだ。

別荘に戸城が一人でやって来た。
チャイムを鳴らしたが返事がなく、車にGPSを仕掛けた直後に二宮が現れた。
戸城は怒らせて決定的な証拠をつかもうと挑発するが、二宮はそれに乗ったふりをして冷静に追い返す。

帰ろうとする戸城に広瀬から連絡が入る。
「剣持の行方がわからん。念のために聞くが、乾はお前のプロファイルに合うか」

二宮のスマホに画像が送られてきた。
縛られて猿ぐつわをされている映美。「東間の屋敷に来い」というメッセージ。
二宮の車は高速道路をひた走る。


乾のアパートに駆けつける戸城や広瀬や捜査員たち。
ドアを壊して中に踏み込むが、そのすぐ後に乾が帰宅した。
自分が疑われていたことにあきれる乾。
墓参りに行っていてスマホの音を消していたため、広瀬からの連絡に気がつかなかったのだった。
今日は剣持の亡くなった妻・咲の三回忌。
不思議なことにすでに身寄りがないはずの咲の墓にはきれいな花が供えられていたと言う。
それを聞いて、戸城は全てを悟った。
「行動変容!悔しい。そういうことか!」
GPSを確認して車を急発進させる。

生きる意味を知るために

薄暗い東間の屋敷に入り、重い扉を開ける。
映美は縛られて横たわっていた。
怪物マスクの男が襲ってくる。二宮はトラバサミに足を挟まれてしまった。
二宮は、男にどうせ正体はわかっているのでマスクを外すように言う。
マスクを外すと、そこにいたのは剣持だった。
「なぜわかった」
何かの調子で脳チップが壊れて、共感能力が戻って来たためサイコパス狩りをしていたんだろうと二宮は指摘する。
その通り、乾に殴られた時に脳チップが壊れ、快楽と怒りしか無かった剣持の人生に痛みや驚き、喜びや悲しみという感情が現れたのだった。
生きる意味は自分の中だけにあるのではないとわかったが、それは剣持にとっての絶望だった。
一番大切な人、自分を信じてくれた女房を殺してしまったのだから。

「だったら彼女を放してやってくれ」
二宮に言われて剣持は映美を自由にしてやった。
「彰さん!」しがみつく映美。
剣持は、最初は脳チップを埋め込まれた者たちを説得するつもりだったが、もうこれ以上誰も殺させたくないから自分が始末することにしたのだと話す。
そして映美の父親をビルから突き落としたのはお前だろうと言う。
突然笑い出した二宮は、映美にナイフを突きつけた。
「じゃあこの女は俺の人質だ。そうだよ。俺がお前の親父を殺したんだ」
剣持と二宮とが闘う中、映美は巻き込まれて壁にぶつかり気を失った。
トラバサミを外した二宮は剣持に一撃を与える。
「お前が一番殺したかったのはお前自身なんだろ」
なぜわかると聞く剣持。もう動けないでいる。
二宮は自分も脳チップが壊れて同じ状態であることを告げた。
「すっかり騙されたな」と言う剣持は、でももうこの苦しみに耐えられないと言う。
剣持の懐からデータと煙草を取り出し、煙草に火をつけ、剣持に吸わせてやる二宮。
そして二宮は、
「罪の意識も含めて生きる意味に興味がある。人の心を手に入れた俺は最強だ。生きる意味を知るために俺は生き抜いてやる」と告げた。
「俺とは違うな、あきら」
そう剣持に呼ばれた途端、かつてこの館で自分を東間から守ろうとしてくれた少年のことを思い出す。
「たけしくん?」
「思い出したか。普通の人間になれるといいな、あきら」

剣持は煙草を投げ捨てる。
燃え上がる炎。
駆けつけた戸城たちは火の回りが早くて近づくことができない。

怪物の木こりはたくさんともだちをつくりました

翌日、二宮の法律事務所に戸城が訪ねて来た。
GPSをつけられていることを知っていた二宮が東間の屋敷に自分を行かせたのは、剣持を倒せない場合に備えてだったのかと聞く。
「あなたはどう思いますか?」
「罪を償おうとしてあなたは剣持を返り討ちにしようとした。あなたも東間の被害者じゃないですか」
二宮は、誰も自分からは逃げられない、言い訳をしながら生きるつもりはないと答えた。
戸城は、「必ずあなたを逮捕します、だからそれまで死なないでください」と言いおいて去る。

二宮は電話をかけて来た杉谷に手術はしないと伝える。

映美が起きてきていた。
無理をしないように言って、二宮は足を引きずりながら近づく。
「全部終わったんだ。昨日のことはちゃんと説明するよ」
怖い思いをさせたことを謝りながら抱き寄せ頭を撫でる。

二宮の身体にナイフが刺さっていた。
父のことだけじゃなく自分の気持ちが踏みにじられたことが許せなかった映美。

二宮は映美を殴りつけ首を絞める。
絞め続けて首に指の跡がついたところで手を離した。
「これで正当防衛だ」と言い、「女の刑事のところへ行け」と叫ぶ。
「彰さん?」
混乱して走り去る映美。

「怪物の木こり」の一節を静かにそらんじる二宮。
赤く美しい血が溜まっていく。

映画【怪物の木こり】の原作

倉井眉介「怪物の木こり」は「第17回このミステリーがすごい!」大賞受賞作

怪物の木こり原作

怪物の木こり(宝島社文庫)
作者の倉井眉介(くらい・まゆすけ)さんは1984年神奈川県横浜市生まれ。
第17回「このミステリーがすごい!」大賞を本作で受賞し、2019年にデビューしました。
毒の強いキャラクターの描き方やテンポの良さ、スリリングで意外な展開で高い評価を得ています。

挿入されている「怪物の木こり」の童話、そして登場人物たちの名前は、誰もが知る海外児童文学から作者が発想したものと解説に書かれていました。
それはきっと「オズの魔法使い」のことでしょう。
失くしてしまった「心」を取り戻したいブリキの木こり。
「脳」が欲しいかかし。
そして旅を率いるドロシー(戸城)。
東間は、竜巻で飛ばされたドロシーの家の下敷きになった東の魔女でしょうか。
小説の最後には、二宮と杉谷がオズの魔法使いについて会話する場面があります。

原作と映画【怪物の木こり】の違い

戸城嵐子や荷見映美の人物設定が原作と異なります。
原作の戸城は、ひたむきな刑事ではありますがサイコパス要素はありません。
映画では、原作の刑事を何人か合わせたキャラクターになっているそうです。

映美は、原作では二宮が顧問を務める不動産会社の社長令嬢で勝ち気でクールなお嬢様。
聡明で勘が鋭いところは映画と同様です。父親は誰にも殺されていません。

そして、原作と映画の一番の違いは結末です。
是非原作の小説もお読みください。

映画【怪物の木こり】の感想

CGやメイクに頼らない輝き

亀梨さんのアクションは見事でした。流石の身体能力です。
猛スピードで走ってくる車の前に立つことも、防犯カメラにボールを当てることも、歩道橋の上から飛び降りることも、吹き替えやCG無しの自身による演技でした。
ただし華麗に見え過ぎないようにというオーダーだったとのこと。
また、亀梨さんのメイクはきれいに整えることをせずわざと汚して肌のひずみを作ったそうです。
女優陣もナチュラルなメイクにしたということでした。
自分の存在感で光ってほしいという監督の願いだったとのこと。
俳優の生身の身体を使うことによって、本人が元々持っている美しさが登場人物をリアルに存在させる力になったのだと思いました。

また、映画全体がグロテスク過ぎず、スタイリッシュ過ぎない演出になっていたと思います。
青い海が見える別荘の眩しいほどの白さは特に印象的。
美しいけれどどこか空虚で同時に緊張感に満ちていて、二宮にまさに相応しいと感じました。
陰鬱な東間の館との対比も鮮やかでした。

怪物の木こり別荘

キャスト陣の繊細な演技

自分の本質がさみしさだと感じた桐谷修二(野ブタ。をプロデュース)、ピュアで心優しい内面と恐ろしい見た目の妖怪人間ベム、外連味たっぷりで傲慢な怪盗山猫や鷹野和也(正義の天秤)、イノセントで優しい青年なのに目的達成のために周囲をだまし続ける鏑木慶一(正体)等、亀梨さんがこれまで演じてきた人物たちが、複雑で繊細な二宮彰の中に生きていると感じました。
二宮彰と亀梨和也との邂逅がこの荘厳なラストシーンをつくったのだと思います。

菜々緒さんが演じた戸城嵐子は、化粧もあまりしていなくて伊達メガネ、髪もボサボサ。
メンズの洋服や靴で脚を広げて立つ戸城から、男社会で伍していく強い気持ちが伝わってきました。
初主演ドラマ「主に泣いてます」で共演した渋川清彦さんとのバディぶりも良かったです。
華やかな容姿が際立つ俳優さんですが、今回装飾を落とした美しさが一層戸城にひたむきな魅力を与えていたと思います。

無機質でクールな美しさを表現した亀梨さんと菜々緒さんに対して(二人とも場面によって変化しますが)、吉岡里帆さんは温度が感じられる存在で、だからこそ映美は二宮彰の心を動かしたのだと思いました。
吉岡さんは優れた歌唱力の持ち主ですが、本作での「おひさまあたれ」は映美らしい素朴で優しい歌声で、心に沁みました。
吉岡さんの持つ温かさ、愛情がこの映画のとても大きな部分を担っていたのではないでしょうか。

染谷将太さんは撮影が二日間だったそうですが、この物語で一番怖いサイコパスとして絶大な存在感がありました。
とぼけた味や絶妙なユーモアセンス、時折見せる無表情の恐ろしさなど、余人を持って代えがたい俳優さんです。
亀梨さんとのバディが魅力的だったので、脳泥棒が現れる前のスピンオフで二人を是非見たいです!
でも殺人と不自然な死亡診断書にまみれた作品になってしまうでしょうか。

中村獅童さんは以前ドラマ「セクシーボイスアンドロボ」で三日坊主という役を演じました。
三日しか記憶がもたない「三日坊主」というあだ名の男が殺人を依頼されるお話。
これもまた「本当のことを知ってしまう重さ」がテーマでした。
剣持が「たけしくん」と二宮に呼ばれた途端、慈しむような表情に変わるシーンが本当に切なかったです。
獅童さんだからこそ剣持の哀しみや苦しさを引き受け、炎の中で浄化してくれたように思います。

渋川清彦さんはミスリードを担う役でしたが、色気のある刑事で流石の存在感でした。
柚希礼音さんは親心によって怪物になってしまう難役でしたが、麗しい声と風格ある佇まいに魅了されました。
出合正幸さんは若い時も年を重ねた時も真摯で素敵でした。
今井朋彦さんは逆さまのまま!なんて贅沢な配役でしょうか。
信頼できる上司役の堀部圭亮さんは深みのある演技で捜査本部を支えていました。
管理官役の伊勢佳世さん、ゆるぎない凛とした姿が美しかったです。
みのすけさんの演技の緩急はとてもリアリティがありました。
安澤千草さんの良子先生も温かくて素敵でしたね。
子役の皆さん、吉田奏佑くん(剣持武士の幼少期)、太田恵晴くん(二宮彰の幼少期)、佐藤恋和ちゃん(泣いていた女の子)も素晴らしかったです。
キャストの皆さん、本当に魅力的でどの役も好きになってしまいました。

「愛する人に殺されるなんてロマンティックじゃないか」

この映画には様々な仕掛けがあり、観るたびにそれを発見していく喜びがあります。
エンドロールで上ってくるキャストの名前と「深海魚」の歌詞「化け物になれ」のタイミングには気づきませんでした。

東間の館の重い扉を北島刑事が開けてから31年後、二宮が同じようにその扉を開けます。
どちらも怪物に会うために。
それから「愛する人に殺されるなんてロマンティックじゃないか」という台詞も、重要です。
二宮が映美に言った言葉を奇しくも二宮自身が体現することになりました。
初めて愛した人に罪多き人生の幕引きをしてもらう。
二宮彰の最期としてこれ以上のものはないと思います。
映美はこれから愛する人を手にかけた苦しみを剣持と同様に抱き続けるのでしょうか。
でも、映美が二宮の魂を救ったことは確かです。
東間によってつくられた人格から、自分を取り戻すことができた二宮。
映美が罪にならないようにと願ってやったことは、サイコパスから最も遠い行動だったのではないでしょうか。
剣持から受け取った「生きる意味」を二宮は最期に力を振り絞って表したのだと思います。

そして、二宮の脳チップを壊した剣持は、子どもの時に救えなかったあきらを今度こそ救ったんですよね。
「たけしくん?」二宮が気づいた時から剣持の表情が別人のように変わります。

観終わった後語り合いたくなる映画

この映画は三池監督が「お客さんを信用して」説明し過ぎていない作品。
観る視点によって様々なものを受け取ることができると思います。
東間によってつくられた人格ではなくても(どれが本当の自分なんだろう)とか(自分を取り戻したい)とか思うことは誰にでもあることかもしれません。
観終わった後、誰かと、あるいは自分自身と語り合いたくなる映画です。

鮮やかに迫る映像の強さ、キャスト陣の繊細な演技、壮絶で美しいラストシーン、そして主題歌のSEKAI NO OWARI「深海魚」が流れる中打ち寄せてくる余韻を、ぜひ劇場のスクリーンで堪能してください。

記事内画像出典:映画『怪物の木こり』公式サイト

怪物の木こり

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