映画【雨の中の慾情】漫画と福子を愛した義男の幸福論ーネタバレあらすじ考察
2024年11月29日(金)から公開された映画【雨の中の慾情】。
夢と現実をさまよい、帰ってこられなくなるような没入感にしびれました!
本記事では、【雨の中の慾情】のあらすじ・ネタバレや考察などについて書いていきます。
映画【雨の中の慾情】あらすじ
漫画家の義男(演/成田凌)は夢うつつ。
芸術を愛する心やさしい義男は、押しに弱い男でした。
ある日、小説家をめざす伊守(演/森田剛)とともに知り合いの引っ越しを請け負った義男。
そこには美しい女が全裸で眠っており…。
映画【雨の中の慾情】ネタバレ
- 起:義男さんって、なんかおちつく
- 承:いびつな同居
- 転:福子の復讐と義男の正体
- 結:月並みの幸せ
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映画本編の結末にふれています!未鑑賞の方はご注意ください!
どしゃぶりのバス停でたたずむ男女。
男は、「金物に雷が落ちるといけない」と女を全裸にし、ついにドブのなかで性行為におよびます。
男と女は、行為のあと笑いあい…
つげ義春の原作『雨の中の慾情』が、ままスクリーンに!嬉
こんな淫夢を見ていたのは義男。
目覚めると、先ほどまでの夢を書きとめ、漫画にしたためていきます。
漫画を愛する義男でしたが、実のところ漫画で金を稼げてはいませんでした。
大家の尾弥次(演/竹中直人)にたのまれ、知りあいの引っ越しの手伝いをすることとなった義男。
引っ越し当日、伊守という男とともに、力仕事を任された義男が家に入ると、そこにはひとりの女が眠っていました。
全裸で眠る女の美しさに導かれるように、義男はそのへんの紙に女の曲線を描きます。
目を覚ました女は、怒るでもなく、義男をおもしろがりました。
女の名は福子(演/中村映里子)。
その晩、4人で引っ越し祝いの杯をかたむけているとき、義男はすでに福子のとりこでした。
福子は、義男をからかうように言うのです。
「義男さんって、なんかおちつく」と。
転・福子の復讐と義男の正体
※本編未鑑賞の方は開かないでください
伊守の仕打ちを許せない福子は、義男と尾弥次とともに伊守の家へとおしかけます。
巨大な城には気丈な女性と、ふたりの娘、そして王子のような衣装をまとった伊守がいました。
福子は、怒りにまかせて伊守に襲いかかります。
帰り道、福子の喪失に向きあった義男は、福子のキスを受けました。
万物に見守られながら体を重ねる義男と福子。
ふたりはやがて、かわいい家に住み息子にも恵まれました。
…しかし、ふとした瞬間、義男の世界が歪みます。
義男は深い眠りについていたのです。
目覚めると、負傷した兵隊のなかに身を横たえていた義男。
戦の影響で、義男には左腕と右足、そして生殖器がありませんでした。
隣には、軍隊仲間である伊守が
義男は負傷した際、福子の毛が入ったお守りを握りしめていたのだそう。
結・月並みの幸せ
※本編未鑑賞の方は開かないでください
じっさいの福子は、軍人が訪れる娼館の女性でした。
伊守に連れられ、娼館を訪れた義男は「福子は死んだ」という衝撃のひと言に打ちのめされます。
福子の形見は、あのときふたりで「きれい」と眺めた万年筆でした。
健康体となった伊守は再び戦場へと旅立ち、ひとりになった義男は野戦病院のベッドで、ひたすらに万年筆を走らせます。
漫画を描き、眠ることで、現実逃避をきめた義男。
義男は、眠ると美しい夢を見ます。
そのすべてに福子が登場し、ふたりはささやかな幸福のもと笑いあうのです。
「月並みの幸せがほしい」という福子を抱きすくめる義男。
「眠たくなったら寝て」といわれた義男は「眠ったら夢が覚めてしまう」といいました。
小間切れの夢のなか、義男はひたすらに福子を探します。
バス停・ともに暮らした家・伊守の城…これまで福子とともに巡った世界を、走り抜ける義男。
そして、いつまた消えてしまうとしても、義男は必ず福子を見つけ、福子は義男に笑いかけるのでした。
じっさいの作品を体験しなければ理解しようのない、たくさんのたくさんの美しい夢の場面を省略しました。ぜひ劇場へ!
映画【雨の中の慾情】考察
映画本編の内容にふれています!ネタバレにご注意ください!
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幸福とはなにか
夢から醒めると、まさに地獄絵図の現実を生きていた義男。
欠損を肉体にかかえ、恋人も親友もいない世界に、義男は未練などありません。
人生をかけて愛する漫画、そして福子さえ在ればいいのなら、夢想世界に特攻していけばいい。
漫画のなかへ、夢のなかへ、福子のなかへ、義男は走っていきますが、私には彼が逃げているようには見えませんでした。
いつかの夢のなかで、福子に「甘えているだけ」と叱咤されたことでさえ、義男にはかけがえのない思い出。
義男は、福子を通して、自分自身の幸福を追求していたように思います。
それは、相手によってかたちを変える福子より健康的な愛の使い方でした。
自分を幸せにできなくて、だれを思いやれようか
鑑賞後、義男がつねに幸福を追い求めていたことに、うれしい気持ちになりました。
滑稽な恋愛模様
片山慎三監督は、本作をラブストーリーと言い切っています。
意味などわからなくとも、「義男が福子を好き」という気持ちだけが伝われば、と。
滑稽さは、はじめ義男がまとう痛々しさに宿っています。
それが、よく知りもせず伊守に焦がれる福子に伝播し、結局“尻の穴までなめ尽くされた”伊守まで届きました。
誰もが、その場の高揚に身をゆだね、滑稽な人間味をダダ漏らしながら暮らす世界線。
福子のシーケンスには黒歴史フラバでゾゾゾ
そして最後には、やはり滑稽さをかくそうともしない義男のピュアな恋心が、幸福な残り香として漂っていました。
季節も、人種もない世界
始終大汗をかいていた福子の姿に、蒸し暑い台湾の夜を想像すると、次のシーンではコートを羽織っている福子が。
終盤、カタコトになったフクコを見て、「ほんとうのことなんてどうだっていい」と自由な気持ちになりました。
【雨の中の慾情】の世界には、季節も人種も街も商店街すらもなく、だだっ広い草原だけが現実なのかもしれない。
何もなくて、3人もいないのかもしれない。
そう考えると、こんなに自由なことがあろうかと、ルンルンした気分になるのです。
映画だからこそ表現できる、自由でどこまでも幸福な精神世界に埋没できて光栄でした。
圧倒的な現実感
私が夢のなかを気持ちよく漂えたのは、圧倒的な現実感のある描写のおかげだと思います。
バス停にはほんとうに雷が落ちてきたし、“つむじ風”を届けた3人を取り巻く海風は、福子の服をビタビタと揺らしていました。
はねる乗り物で本を読めばゲロが出るし、金をネコババすれば袋叩きにあう。
ちゃんとそうなることはそうなる!すごいバランス感覚
そして、最も本作のリアリティを担保していたのが、福子の美しい汗だったと思います。
原作・つげ義春を愛する気持ち
本作には、つげ義春先生の漫画『雨の中の慾情』『夏の思いで』『池袋百点会』『隣りの女』をミックスした寓話が織り込まれています。
もともと見た夢を漫画にする手法は、つげ先生本人のもので、だからこそある種の無鉄砲さや支離滅裂な展開がつげ作品の魅力のひとつです。
映画【雨の中の慾情】も、義男の夢のなかを漂う構成ですが、ユメユメすぎない、良い塩梅でかけ合わされた日常の風景が見事。
それでいて、つげ先生の夢パートに違和感なくつながる、ひとつの作品としてのバランス感覚に、やはりしびれました。
鑑賞の翌日にじわじわとこみあげる「いい映画だったなあ」というこの気持ち…最高!
【雨の中の慾情】ネタバレあらすじ・考察まとめ
他人の夢世界を歩きながら、自分の手元にある幸せの尊さを噛みしめた132分。
義男・福子・伊守の3人、そして彼らの世界を構成するすべての演者たちに思いを馳せながら、今夜も夢のなかへ迷いこみたいと思います。
劇場のスクリーンでしか体感できない“月並みの幸せ”を、ぜひ掴みにいってください!