【空白を満たしなさい】の原作ネタバレ!復生者・徹生の結末は?

【空白を満たしなさい】の原作ネタバレ!

柄本佑主演のドラマ【空白を満たしなさい】の原作は、平野啓一郎さんの同名小説。

死んだ人間が生き返る「復生者」のニュースが報じられる。復生者の一人・土屋徹生はなぜ死んだのか?自らの死の理由を追い求める中で、人が生きる意味、死んでいく意味、そして幸福の意味を知る?!

今回は【空白を満たしなさい】の原作ネタバレについて!

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目次

【空白を満たしなさい】原作のネタバレ

『空白を満たしなさい』原作小説のあらすじネタバレを紹介!

第1章「生き返った男」のネタバレ

土屋徹生は36歳になる年齢。父が死んだ年と同じだ。

徹生は内科医を訪ねた。その内科医は3年前に徹生の遺体を検視した。なのに別人だという。整形か、双子か、ともかく彼は「死んだ人間が生き返った」なんて受け入れなかった。

世界各地で、死んだ人間が生き返る「復生者」のニュースが報じられていた。徹生もそのひとりだ。

ある夜、勤務先の会議室で目醒めた徹生は、帰宅後、妻から「あなたは3年前に死んだはず」と告げられた。そして病院にやってきた。けれど3年前に亡くなった土屋徹生と同一人物とは認めてくれなかった。

妻が病院に迎えにきて一緒に自宅に帰った。息子と一緒に楽しく食事をした。その後、夫婦ふたりきりになったとき、妻・千佳は苦しい胸の内を明かした。

なんで自殺したの?

そう千佳は言った。そして徹生の手帳を見せた。

いやだ」と書かれていた。…夫が自殺したことで、千佳は心に深い傷を負っていた。

徹生は「自殺じゃない」と主張し、「殺された」と疑っていた。

思い当たる人物がいた。会社の警備員の佐伯だ。彼が鳩を蹴り殺したのを見た徹生が注意したことがある。それ以来、逆恨みされていた。

実は、佐伯が徹生の第一発見者だという。徹生は、ますます疑念を深める…。

第1発見者の佐伯は怪しいわね。

第2章「人殺しの影」のネタバレ

徹生は、かつて勤めていた堂島製缶へ行った。元の上司の安西と話す。

安西は、腕組みして、背もたれに体を預けると、神妙な顔で徹生を見つめた。
「なあ、土屋、――いいか? 人間一人死ねば、その一人分の穴が開く。大きい穴もあれば、小さい穴もある。けど、その穴をいつまでも放っておくわけにはいかんだろう。みんなで一生懸命埋める。じゃないと、一々その穴で躓(つまず)くことになる。――な?」
「……。」
「仕事の穴、家族の穴、遺(のこ)された人の心の中の穴。――お前は、それがちょうど、塞(ふさ)がったところに戻って来てる。無理に抉(こ)じ開けようとすると、破れてしまうぞ。」

「空白を満たしなさい」単行本P77

3年も経過し、居場所はないということだった。安西は前例がないから社長に掛け合ってみるとはいう。

その後、工場長の権田に会った。徹生が飛び降りた屋上への鍵を手配してくれるという。権田は不登校の娘のことで親身になってくれた徹生に感謝していた。佐伯は徹生が亡くなった後すぐ警備会社を辞めて行方をくらしましているらしい。ますます怪しい。

徹生は警察に行き、佐伯のことを話した。

(回想)ある日、車内で疲れて寝てしまった徹生。起きると助手席に佐伯がいた。佐伯が鳩を蹴り殺したのは社長の指示だったという。徹生が知らずに注意してしまったらしい。佐伯は徹生を憎んでいた。

佐伯は”遺伝子が泣いている”という意味不明の話をした。「人間が生きてる意味なんて繁殖のため」という。徹生が働いて家族を幸せすることや、妻子と笑ったりする日常が幸せだという価値観をいうと…馬鹿にする佐伯。

佐伯は徹生の妻と「生殖したい」という。遺伝子レヴェルで結合したいという佐伯。徹生は怒って彼の首をしめる。佐伯は車の外へ逃げ出した。その1週間後、徹生は屋上に行って飛び降りた。

佐伯、気持ち悪いやつだな。

第3章「惑乱の渦中へ」のネタバレ

千佳は発作が起きた。夫が自殺した精神的ショックがたびたびくる。あの日の朝、何かサインを見落としたのではないか?…と自分を責めて苦しんでいた。秋吉が千佳に、徹生が生き返った理由は「それだ」と教えた。つまり徹生は、間違った解釈で苦しむ千佳を助けるために生き返った、と。佐伯とのことは黙っておくことにした千佳。佐伯と何やらあったようで…。

徹生は母と再会する。母は徹生が生き返ったことをとても喜んでいた。

夜。徹生は凛久とお風呂に入りたがったが、泣かれてしまった。凛久が寝た後、リビングのソファーで3年ぶりに夫婦の営みをする徹生と千佳。徹生は、生きていることを実感した。

生き返った者たちは「復生者」と呼ばれた。<複生者の会>というのもできていた。徹生は会に相談して、ネット上の批判を消してもらった。

警察は会社の防犯カメラ映像を押収していなかったし、捜査中とはいうばかりで進展しない。しかも、とある刑事は「人間だもの」と言って、自殺を受け入れるように徹生に勧めた。

徹生は、佐伯の実家へ一人で向かう。住所は権田から教わった。その途中、ふと自分の方が佐伯を殺したのではないかと疑う。佐伯が車内から逃げたのは記憶違いか。不安になりながら向かった。

記憶が曖昧なのね。まさか徹生が殺してないわよね?

第4章「過去が明るみに」のネタバレ

佐伯の実家探しが空振りに終わって1週間後。6月30日、徹生は36歳の誕生日を迎えて、秋吉夫妻、権田と権田の娘・アイちゃん(高校生)も土屋家にやってきてお祝いしてくれた。

秋吉は、徹生がひとりで佐伯の実家探しに行ったことを非難する。会えば殺してしまう可能性があることを心配していた。話の流れで、佐伯と千佳の間に「何か」あったことがわかる。

みんなが帰ったあと、千佳は徹生に佐伯とのことを話した。

(回想)千佳は徹生が亡くなった理由を知りたくて、佐伯と会った。佐伯は徹生が異動したのは業者からのキックバックがあったこと、徹生が1日15時間勤務で過労だったことなどを説明する。(キックバックは濡れ衣)

徹生は幸せな家族を守るために働きすぎて「生きることに殺されたんだ」と持論を述べる佐伯。

また、2度目に千佳と再会した佐伯は「幸福への抜け道」としてデリヘル(デリバリーヘルスの略。風俗嬢を派遣し性的サービスを行う業態)を千佳に進める。生殖という人生の目的を果たしたのだから「楽して稼いでいい」と誘惑する佐伯。

佐伯は「幸福」についても考えたという。自分の価値観(金、出世など)と自分自身が合致したとき幸福ではないか。徹生は自殺したいという価値観と合致したのだから幸福…と佐伯は言う。「現状に価値観を合わせればいい」という佐伯の誘惑は、千佳を苦しめる。

凛久を育てることで救われ、生き延びた千佳。

だが、タイミングが違えば佐伯の誘いに乗ってデリヘル嬢になっていたかもしれなかった。

後日。徹生が会社の屋上へ、権田とともに行った。もう少しで思い出しそうだったが駄目だった。しかし飛び降りたら大きな音がして社員たちが集まったはず。佐伯が徹生を屋上から落として、非常階段を使って地上まで行って第一発見者になるは困難に思えた。では一体誰が徹生を殺した?

千佳さん、楽な道に流されなくて良かったわ。

徹生は過労死な気もしてきたぞ

この章で、第一発見者の佐伯が徹生を突き推すことは不可能と分かりました。つまり、佐伯は犯人ではないようです。

第5章「茫然自失」のネタバレ

徹生は秋吉が経営するディスカウントショップに週5日で勤務。だが月11万ほどの収入しかない。再就職も探しているが、「復生者」と明かすと不採用になってしまう。

さらに生命保険を返すよう言われてしまう徹生。千佳はマンションを売って、見合った住まいに引っ越そうというが…徹生は迷った。

ディスカウントショップで徹生のしたクレーム対応をめぐって、先輩だが年下の店員・比嘉と徹生が衝突。徹生を雇うためにアルバイト2人が辞めさせられたことも知る徹生。複雑な胸中になる。

色々と重なって、ふと「死にたい」と思ってしまう徹生。…だが徹生はお風呂に入ったとき、死ぬ2週間前に妻子と行ったバリ島旅行を思い出して、心地よい疲労だったことを思い出した。

徹生は凛久と接すると、死にたいなんて言ってはいけないと思った。

やっぱり子供って生きる原動力ね。徹生が3年前、自殺するわけないと思うわ。

世界各地の「復生者」のニュースを見た徹生は、死者が生き返ったことで皆が圧迫を感じていることも知った。前向きにならなきゃと思うが、飛び降りる悪夢も見てしまう徹生。

その後、徹生は沼津で開催される「復生者の会」の総会へ一人で行くことにした。その前に、実家に寄って母と母方の祖母(89歳)と再会した。思い出話をたくさんする。

幼い頃、徹生は「父に似てる」と言われることに反発していたらしい。そして「死んだらおしまい」だから父が天から見守っているという考え方を否定していたそうだ。だから母は、息子に夫の面影を見ることをやめたという。徹生はあまり覚えていなかった。

徹生は【人は亡くなるのではなく無くなる】という考えを今でも持っているが…。

別れ際、母は徹生が仕送りしてた分すべて、徹生に返した。躊躇したが、最後は受け取る徹生。

お母さんからのお金、ありがたいね。

第6章「決定的な証拠」のネタバレ

徹生は「復生者の会」の総会へ参加する途中のバスで、ITベンチャーを経営しているチャラい男・木下と親しくなる。

総会には130名ほごの復生者が参加。元大臣が挨拶に来たり、京都の火事で人助けの為に亡くなったポーランド人・ラドスワフなども出席。代表の太田の「生き返った意味は一人一人が考えればいい」という言葉に感銘を受けた徹生。来て良かったと思った。

ホテルで休んでいると、DVDが部屋のドアに差し込まれた。それは徹生が探していた「会社」の屋上の防犯カメラ映像だ。見てみると、誰も徹生を突き落としてはいかなかった?!徹生は自殺だった?!

自殺だったのね。どうして?

午後は3組に分かれて、参加者が各々の体験を語り合うセッションとなった。そこで少女が天国のことを話したとき、金縁眼鏡の男がそこは天国じゃないと全否定。物議をかもしてセッションは中断になった。

徹生はセッションに参加していた人の中に佐伯を発見。声をかける。・・・DVDを部屋に持ってきた犯人は佐伯だった。しかも佐伯は、徹生の方が「人生の目的は繁殖」と言っていて悩んでいたという。徹生はそれは「お前が言っていた」といっても佐伯は否定。混乱する徹生。

そして佐伯は千佳には秘密がある…と言い残す。

徹生はセッションの残りには参加せずに部屋で休んだ。また悪夢にうなされる徹生。

第7章「楽園追放」のネタバレ

徹生はDVDを何度も見返して、編集されていないか疑った。だが不審な点はなかった。

徹生は自殺した事実を受け入れた。あとは動機は何か?だが…。

総会2日目。健康診断や弁護士との相談へ。その後、各テーブルに分かれて意見交換が行われる。

天国や死後の世界はない…と考える人が多くいることを知る徹生。自分と同じ考えで安心した。

隣りのテーブルでは、佐伯が「死にたい人を止める権利はない。個人の自由」と訴えて、復生者たちの反感を買っていた。

その後、徹生は嫌な予感がして佐伯を探すと、バルコニーにいた。自殺しかける佐伯の腕をつかむと出血していた。佐伯は自分自身が死ぬことも自由だと言い張る。

佐伯は意外な新事実を2つ告白した↓

「俺が殺したんだ、お前を」

「…何?」

佐伯の顔は優しく歪んだ。

「わからないのか?俺は、お前の親父だ。徹生。」

「空白を満たしなさい」単行本P278

徹生は混乱した。殺した?俺の父親?

そして佐伯は「生きてみた」が、「これの何が面白いんですか?」とネガティブなことを言った。

頭から飛び降りる佐伯。

「俺が殺した」の意味とは?:「俺が殺した」の意味は、徹生の中の「佐伯との分人」が殺したんだという意味だと思います。実際に殺したわけではないでしょう。※分人については、のちほど元・精神科医が語ります。
「俺はお前の親父だ」の意味とは?:引用した台詞のあと、佐伯は「1歳半のときに死んで、復生したお前の父親だよ」と言っています。これは、嘘の可能性が高いです。他の復生者は生きてた頃と同じ姿、記憶もあるので…。
 この「親父」は現実を意味していると思います。徹生の父親は36歳の若さで心臓発作で他界。そのため、徹生は生きて自分の家族を幸せにしたいという「父としての理想像」があります。佐伯は人生の目的は繁殖で、それ以外の意味はないという価値観。そんな佐伯が「俺はお前の父親だ」というのですから、その反対の意味。理想の反意語は「現実」。つまり父としての残酷な現実を示しているのでは?

*****

佐伯は死亡した。徹生は警察から事情聴取を受けた。だが、目撃情報も多く、佐伯が自ら転落したことは明らかで、徹生の無実は証明された。

警察は、佐伯は復生者でなく行方不明者で、捜索願が出ていたと教えてくれた。家族とは連絡が取れないようだ。

夜。徹生は、小屋であえぎ声を聞こえたので、のぞいてみた。木下と(木下の主観だが)美人の復生者の女性とが結ばれていた。

総会3日目。徹生はラドスワフ…通称:ラデックと話す機会があった。

ラデックはこの施設の名前「パラディ」(フランス語)が楽園という意味だと教えてくれた。10歳のとき、アダムとエヴァ(イブともいう)がエデンから追放されて以来、神は孤独で、寂しい…というポエムを書いたと話す。教師からは怒られたというが、徹生は心打たれた。

徹生は死後の世界を覚えているのか質問した。ラデックは「怖い」思いだけしか残っていなかった。

佐伯の自死の話題になり、ラデックは苦悩する権利を否定してはいけないと説く。

そしてヨーロッパにはグノーシス主義というのがあると紹介する。

ざっくり解説すると…グノーシス主義は、この世界を作ったのは偽の神で、人間の肉体と霊魂は別々のものと考える。人の世の不幸や悲劇はすべてこの世界が悪であるが故。肉体という「悪の存在」から解放され、正しい知性を得ることこそが「救い」であると説く。神を否定することからキリスト教からは異端視された。

また、ラデックは「自殺は罪か?」「神の自殺」「人間を自殺させしてしまう何か」などを論じた。(ちょっと「あらすじ」とずれるし、難しいので本書を読んでみてください)

そして、大家さんを助けに行ったのを「後悔してる」というラデック。意外な発言だった。ホントは助けに行く気はなかった。自分の命の方が大事だから10回あったら1回助けに行く程度。その1回をしてしまったという。

死は傲慢に人生を染めます」というラデック。

死に方だけで英雄視されても批判されるのも間違いだというラデック。でも、徹生は10回のうち1回しかしない1回をしたことを褒めて、尊敬した。ラデックはもう少し考えてみることにした。

徹生ろラデックは連絡先を交換して別れた。

第8章「勝者なき戦い」のネタバレ

徹生はラデックの紹介で、自殺対策をしているNPO法人「ふろっぐ」を訪問。代表の池端は大学病院の精神科に勤めていたが、投薬以前に必要なことをするため、4年前にこのNPO法人を立ち上げた。今は医療行為以外でできることをしているという。

池端は分人主義を説いた。「分人」とは対人関係ごとに生じる様々な自分のこと。 一人の人間は複数の分人でできており、「本当の自分」という中心は存在しないというもの。

「分人」という考え方は人を自殺をさせないためだという。自分すべてを肯定するのは難しいが、誰かといる自分(その人との分人)は好きだというのは難しくない。その分人を足場に生きればいいってこと。

学校や会社の自分は好きじゃないけど、家族や恋人といる時の自分は好きってあるわね。

池端は、ゴッホの自画像の絵葉書を何枚も飾っていた。どれも本物のゴッホを描いている。

ゴッホは自殺しているが、どの絵がどの絵を殺したのか?と池端が聞いた。

徹生は【麦わら帽子の自画像】が(耳を削ぎ落した直後の)【パイプをくわえた包帯の自画像】を殺した、いや「消した」と答える。

池端は逆ではないか?と思った。だが・・・

病んだ分人が攻撃するものと思っていたが、病んでない分人たちが病んだ分人を攻撃している。

つまり病気のゴッホが他のゴッホたちを殺したのでなく、他のゴッホたちが病気のゴッホを消したがった。

そういう解釈も可能で、池端は興奮した。新たな気づきだった。

その後、家にて。徹生は呼び名で分人が表現できると思って紙に書いた。

  • 「てっちゃん」と呼ぶのは千佳。
  • 「おとうさん」と呼ぶのは凛久。
  • 「徹生くん」と呼ぶのは秋吉。
  • 「土屋」と呼び捨てなのは安西。
  • 「土屋サン」と呼ぶのはラデック。
  • 「土屋さん」と呼ぶのは池端などその他大勢。
  • 「あなた」と呼ぶのは佐伯。

凛久を寝かしつけた千佳がリビングに戻って来て、あわてて紙の「佐伯」をペンで消そうとした。紙が破れて・・・

徹生は手帳の『いやだ』の文字も黒のペンで塗りつぶされていたことを、思い出した・・・。

第9章「真相」のネタバレ

ゴッホの【麦わら帽子の自画像】はゴッホ本人ではなく弟のテオを描いた・・・というニュースが流れた。

池端は驚いた。ゴッホは弟に殺されたという説もあり…徹生の【麦わら帽子の自画像】が【パイプをくわえた自画像】を殺害した説が当たっていた。

テオとの分人がゴッホを殺したのだ・・・と池端は解説。もっとも愛する人(=弟)との分人が自分を丸ごと消そうとしたのは、悲しいと池端は思った。

もっとも愛する人との分人が自分全部を殺すって、ちょっと難しいけどキーワードだね

手帳の『いやだ』で思い出したのは、取引先とのスケジュールを間違えたこと。安西と取引先に謝りに行ったが、安西は徹生を責めなかった。でも徹生は自分のことを責めた。

安西に徹生は安西部長ととともに屋上へ行った。そして葛藤の末、飛び降りる前の黒い影が息子・凛久だと分かった。そして飛び降りる直前「生きたい」と思ったことも思い出した。

徹生は終点まで止まらない電車に乗っていた。降りるときは部署の異動のときだったかもと振り返る。

徹生は疲れていた。疲れることで「生きている」実感を得ていた。

「疲れることで生きていることを実感する」とのことですが「過労」「働きすぎ」になった状態は『ワーカホリック』(仕事中毒)と呼ばれる症状ですね。

徹生が自殺した理由

徹生は自殺した理由をこう結論づけた↓

僕を殺したのは、息子のために生きたいと、心から願っている僕でした。その僕は、生きることの意味を否定する僕を消してしまおうとしてたんです。

「空白を満たしなさい」単行本P393

徹生は「個人」という考えしかなかった。

だから佐伯から影響を受けた自分丸ごと消してしまった。

しかし「分人」という考えがあることを知った今、佐伯との分人だけを消せばいいと考えを改めることができる。

徹生は妻子があり幸福だった。だが疲れて混乱していた。そこに佐伯の「生きている意味を否定する」思想の影響を受けてしまう。そして・・・そんな自分を殺した。生きたかったから。それが真相だった。

もっとも愛する人との分人が自分を丸ごと消したことは、ゴッホのケースと似ていた。病んでない分人が病んだ分人を攻撃した。つまり凛久との分人が徹生を丸ごと消したのだった…。

学校でイジメられたら、あるいはブラック企業だったら「逃げてもいい」ってよく言うけど、その分人だけを消して他の分人として生きる…ってことよね。

平野啓一郎さんは『私とは何か――「個人」から「分人」へ 』(講談社現代新書)という書籍でも「分人主義」を丁寧に解説、提唱しています。興味を持ったら読んでみてください。

第10章「夢のような一時(ひととき)」のネタバレ

徹生は屋上から飛び降りるとき「生きたい」と思った。その思いから人生を再スタートすることを決めた。

復生者襲撃事件がヨーロッパで多発していた。移民排斥と似ていて、背景には失業問題があるというのがラデックの見解だ。

池端は死者の心の問題もあるという。復生者が伝記の作者を訴えたケースもある。死んだ人の思いを想像して埋め合わせて、遺された者が前に進めるケースもあるから難しい問題だ。池端は語ること自体は否定しないが「語る資格」の有無はあるという。

徹生は木下とタッグを組み、死んでも消滅しない方法の実現を目指す。

遺骨や髪の毛など以外に残るものを5つに整理した↓

  1. 記憶(関係者の脳)
  2. 記録(写真や動画、SNSなどのメディア)
  3. 遺品(生活用品だけでなく家や旅行した宿など)
  4. 遺伝子(子供)
  5. 影響(故人の言葉、行動)

これらを保存する場所を作りたいという徹生。木下は、このうち「遺伝子」と「影響」は、本人から遠ざかるほど価値があるため保存する必要はない。試行錯誤しながら企画を進めていく徹生。

死んでも消滅しないって素敵な考え。

ある日、徹生は妻子と隣町のアスレチックへ。楽しくて幸福な時間だったが、妻・千佳が動けなくなり、倒れこんでてしまう。

病院で、根本的な治療法はないことを告げられた。転換性障害というものらしい。

千佳は自分の母親を憎み、絶縁していた。言葉にするのも恥ずかしくヒドイことを子供のころの千佳にさせたらしい。徹生は初めて妻が「暗いもの」を抱えていることを知った。

徹生は池端にも電話して妻のことを相談。気長に支えていくことを誓う徹生。

そんなある日。木下と連絡が取れなくなってしまう。さらに、ポーランドに帰国したラドスワフが行方不明になっていることがニュースで流れて…。

第11章「空白を満たしなさい」のネタバレ

復生者たちが消滅し始めていた。

徹生も消えてしまうことを恐れる。そのため、やり残さないように取り組んでいく。

千佳の両親に会いに行く徹生たち。千佳は母を憎んでいたが、少しだけ和解する。

木下とタッグを組んだサービスは部下が引き継いでいた。成功したら報酬をもらえることになった。これで徹生の妻子にお金がいく。

徹生は息子・凛久にいつか見てもらうために、自殺した理由などをビデオ撮影し、USBを缶に入れて保存する。凛久には父は事故死と伝えてある。だから、徹生は妻に頼んだ。いつか凛久が大人になったとき、「自分で缶を開けて、『空白を満たしなさい』」と。

『空白を満たしなさい』というタイトルの回収です。息子へ向けたメッセージだったのですね!

あれだけ記録・記憶などにこだわったのに、33歳の妻や4歳の息子のため、また亡くなったら無になることがいいと徹生は思い始めていた。

そのため、徹生は自分がいなくなったあと、千佳には再婚してほしいと告げる。そして秋吉夫妻にも千佳・凛久のことを頼み、再婚のことも後押しするようお願いした。

何かを感づいて不安定になったのか凛久が寝る時間を守らず、千佳をたたいた。徹生は激しく叱ってしまう。

翌朝。凛久は千佳と仲直りした。徹生とは話さなかった。

徹生の母親が来た。千佳と義母は仲直りする。そして徹生、徹生の母、千佳、凛久で千光湖へピクニックに行った。

徹生は母に「俺を生んでくれてありがとう」と感謝した。

千佳と凛久は鳥に餌をあげていた。

徹生は駆け寄り「りく!」と声をかける。凛久が徹生に駆け寄ってくる。

世界が眩(まぶ)しく輝く。凛久を抱きしめるまであと少し…。

(おわり)

【空白を満たしなさい】復生者・徹生の結末は?

ここから結末の解説です。

復生者が次々と消滅していく中、復生者・徹生の結末は一体どうなったのでしょうか。

小説のラストは、徹生が息子を抱きしめる寸前で終わってしまいます。

ラスト3行を引用すると・・・

世界が一斉に、目も開けていられないほど眩しく輝いてゆく。永遠が、一瞬と触れ合って、凄まじい光を迸(ほとばし)らせる。凛久が駆け寄ってくる。抱きしめるまでは、もうあと少しだった。

「空白を満たしなさい」単行本P493

おそらく、徹生は消滅したのでしょう。

永遠とは「死」のことで、一瞬とは「生」のことだと思うので…。

実は、本作では、なぜ復生したのか?なぜ消滅(復死)したのか?説明がありません。

作中にもありましたが、なぜ生まれるのかも意味がわかっていないので、復生の意味の説明がないこともありですけどね。

けれど、私(筆者)は…徹生は生き返ったことで妻の苦しみを解いたり、自身が亡くなった意味を理解したり、「空白」を満たして成仏したのかなと思いました。

徹生も言っていましたが「分人主義」を知っていれば、自殺しなかったかもしれません。つまり家族との分人の構成比率を高め、重視すれば、もしかしたら…。

私は「分人主義」を聞いて、アドラー心理学の「課題の分離」の応用だと思いました。課題の分離とは、人間関係のトラブルが起きたときにそれは自分の課題か、他人の課題かをわけて考えるというもの。「分人主義」は対人関係ごとに自分をわける考え方なので、ちょっと似てませんか?

いろいろと悩むことが多い人生。個人でなく分人という考えを持てば、生きやすくなるかもしれません。

【空白を満たしなさい】原作の登場人物

【空白を満たしなさい】原作の登場人物を紹介!カッコ内は演じる役者さんです。

土屋徹生(つちや・てつお)(柄本佑)…主人公。32歳で急死。3年後に生き返った?!

土屋千佳(つちや・ちか)(鈴木杏)…徹生の2歳年下の妻。夫が生き返ったことに驚く。

土屋凛久(つちや・りく)(斉藤拓弥)…徹生との息子。

土屋保(つちや・たもつ)(萩原聖人)…徹生の父。36歳で亡くなった。徹生が1歳半のときだった。

土屋恵子(風吹ジュン)…徹生の母。

佐伯(阿部サダヲ)…徹生が勤務していた会社の警備員。

安西(渡辺いっけい)…土屋徹生の元上司。製缶部門の部長。

権田(うじきつよし)…工場長。

秋吉浩一(萩原聖人)…徹生が兄のように慕っていた人物。徹生より6歳年上。ディスカウントショップを営む。

秋吉の妻(田村たがめ)……夫婦で徹生の一家を見守る。

木下(藤森慎吾)…徹生と同じ復生者。ITベンチャーの社長。「食事会.com」を運営しており、合コンの人集めの場として役立っている。

ラデック(ブレーク・クロフォード)…本名:ラドスワフ・タタルチェック。徹生と同じ復生者で、ポーランド人。日本に勉強に来ている。中世の比較文学が専門。京都の町屋が火事になったとき、大家さんのおばあさんを助けるために火の中に飛び込み亡くなった。聖人扱いされている。

寺田…寺田医院の二代目院長。内科医。15年にわたり検案医として変死体の検視に協力している。3年前に徹生の検視もしたが、生き返ったことを認めない。

園田…徹生の同期。口先だけの調子いい男。缶の上が全開してグビグビ飲める「石沢ビール」のプロジェクトを徹生の亡き後、引き継いだ。

権田アイ…権田の娘。不登校だったため、土屋夫婦が心配して食事に招いた。徹生のCDを朝まで聞いた。

比嘉…秋吉のディスカウントショップの店員。20代後半。

古ヶ崎…政治家。前・財務大臣。復生者の会を応援している。

太田…復生者の会の代表。自身も復生者。4年前、52歳のときに心筋梗塞で急死したが生き返った。

池端…NPO法人「ふろっぐ」代表。大学病院の精神科勤務歴あり。

画像出典Amazon

空白を満たしなさい

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